副本  (原文縦書)

平成一一年(行ウ)第山十三号 北海道旧土人共有財産等返還手続無効確認請求事件

                   原  告  小 川 隆 吉ほか二三名

                   被  告  北 海 道 知 事

平成一一年一〇月一三日

        右被告指定代理人

         〒〇六〇-〇八〇入 札幌市北区北八条西二丁目一番一

                    札幌法務局訟務都 (送達場所)

                   (電話 0一一-七〇九-二三一一)

                   (FAX 0一一-七〇〇-二七一八)

                   部付検事  

                  上席訟務官  

                  訟 務 官  

         〒〇六〇-八五八八 札幌市中央区北三条西六丁目

                    北港道総務部文書課

                  北海道事務吏員   

                  北海道事務吏員   

                  北海道事務吏員   

                  北海道事務吏員   

                  北海道事務吏員  

                  北海道事務吏員  

                    北海道環境生活部総務課アイヌ施策推進室

                  北海道事務吏員  

                  北海道事務吏員  

札幌地方裁判所民事第三部 御 中

      答   弁   書

第一 本案前の答弁

 一 請求の趣旨に対する答弁

   原告らの本件訴え(主位的請求及び予備的請求を含む。)中、原告A A A Aの

  請求のうち訴状別紙五記載の官報公告における番号一六の共有財産に係る請求、

  原告S S S Sの請求のうち訴状別紙十記載の官報公告における番号五及び一七の

  共有財産に係る請求並びに原告T T T Tの請求の各予備的請求を除く部分をいず

  れも却下する

   訴訟費用は、右原告らと被告の間では、右原告らの負担とする

  との判決を求める。

 二 本案前の答弁の理由

  1. 共有財産及び指定外財産について

  (一) 被告は、北海道旧土人保護法(明治三二年法律第二七号。以下「旧法」と

   いう。)一〇条一項の規定に基づき北海道旧土人共有財産(以下 「共有財

   産」 という。) を管理してきた。

    共有財産とは、旧法に基づき、北海道旧土人(以下 「アイヌの人々」 とい

   う。) の保護を目的として北海道庁長官ないし被告が指定し管理してきた開

   拓使の官営漁業による収益金などをいうが、その多くは旧法が制定される以

   前に形成されたものである。その具体的内容は訴状九ないし一一べ−ジに記

   載のとおりである。

    共有財産の種類には、土地、建物などの不動産のほか、現金、公債証書、

   債券、株券等があつたが、不動産については昭和二七年までに管理を終え、

   その後は現金のみを管理している。 共有財産は、「北海道旧土人共有財産管

   理規程」 (昭和九年北海道庁令第九四号) により、不動産は賃貸し、現金は

   郵便貯金などにより利殖を図るものとされていた。これによる収益金は、戦

   前においてはそれぞれ指庶の目的に従いアイヌの人々に給付されていたが、

   昭和二一年以降はアイヌの人々に対する救護も生活保護法によることとなつ

  たことから、共有財産の収益金からの給付は行われず、利息の収入があるの

  みとなつていた。                                                       

 (二)また、旧法に基づく指定はされていないが北海道庁長官ないし被告が事実

  上管理するに至っていた財産(以下「指定外財産」という。)については、

  共有財産と一体的に管理されてきたものである。

   指定外財産については、管理するに至った経緯及びその形成時期は定かで

  はないが、現存する資料(昭和一九年度旧土人共有財産台帳)に指定外とし

  て当骸財産の管理額の記述があることから、管理開始はこれ以前であると思

  われる。

 (三)なお、共有財産及び指在外財産(いカ以下「共有財産等」という。) の平成九

年九月五日現在の件数及び管理金額は次のとおりである。

 (1)共有財産  一八件 一二九万三〇九八円

 (2)指定外財産  八件  一七万五二四0円

    合 計   二六件 一四六万八三三八円                                                            

2 アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関す

 る法律(平成九年法律第五二号。以下「アイヌ新法」という。) の制定につい

 て

(一) 旧法は、アイヌの人々に土地を下付し、農耕を奨励して自活を講じさせる

  とともに、医療、生活扶助、教育の奨励などアイヌの人々を保護することを

  目的としていたが、昭和一〇年代以降は土地の下付の実績がないなど、十分

  に運用されていない状況にあつた。

(二) このような状況の中で、国及び北海道においては、アイヌの人々の社全的

  ・経済的な地位の向上を図るため各種の施策を行ってきたが、アイヌの人々

  の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、あわせて我か国の多様

  な文化の発展に寄与することを目的として平成九年五月にアイヌ新法が制定

  され、その施行に併せて旧法が廃止された。

3 共有財産等の返還手続について

(一)旧法の廃止により、それまで被告が旧法に基づき管理してきた共有財産に

 ついては、アイヌ新法附則三条の規定に基づいて共有者に返還することとさ

 れ、共有者から請求のないものについては、同条五項の規定により、指定法

 人(アイヌ新法附則七条一項の規定により指定された「財団法人アイヌ文化

 振興・研究推進機構」) に帰属することとされた。

(二) 被告は、平成九年九月五日、アイヌ新法附則三条二項の規定に基づく公告

 を行い(乙第一号証)、同日から平成一0年九月四日までの間、アイヌ新法

 附則三条三項の規程に基づく共有財産の返還請求を受け付けた。

  なお、指度外財産についても、共有財産に準じて返還手続を行っている

 (乙第一号証)

(三) 右返還請求を行った者が共有貯産等の返還を受けるべき資格を有するかど

  うかについては、平成一0年一一月二六日に被告が設置した北海道旧土人共

  有財産等処理審査委員会(委員は、アイヌ関係者二名、弁護士一名及び学識                          

者二名の合計五名。以下「審査委員会という。)において、同年一二月か

  ら平成一一年三月までの間、審査が行われた。)

   被告はその審査結果を踏まえ、平成一一年四月二日付けで返還決定又は返

  還しない旨の決定を行い、右返還請求を行った者へ通知した。

4  訴えの利益について

 行政事件訴訟法上の抗告訴訟は、行政庁の公権カの行使に関する不服の訴訟

 であり、主観的訴訟であるから、当該公権カの行使が有効なものとして存在す

 ることから生じている法的効果を無効確認しあるいは取り消すなどして除去す

 ることにより、原告らの法的、利益が回復される関係にあることを当然の前提と

 しており、かかる関係が認められないときは、訴えの利益(狭義)を欠き不適

法な訴えというべきである。

  本件にあつては、原告らは、乙第二号証の一ないし五、同八ないし一四、同

 一七ないし一九及び同二一ないし三一のとおり返還請求をなし、これに対して

 被告は乙第三号証の一ないし五、同八ないし一四、同一七ないし一九及び同ニ

 一ないし三一のとおり原告らの返還熊求どおりの返還決定をなしたもので、右

 各返還決定は原告らにとって有利な行改処分であり、原告らの権利又は法律上

 の利益を侵害するもめではなく原告らに何ら不利益を与えるものではないから

 その処分の無効確認又は取消しによって回復されるべき法律上の利益は存しな

 い(ただし、原告A A A Aの請求のうち訴状別紙五記載の官報公告における番

 号一六の共有財産に係る請求、原告S S S Sの請求のうち訴状別紙十記載の官

 報広告における番号五及び一七の共有財産に係る請求並びに原告T T T Tの請

 求(以下「返潰しない処分に対する静求jという。)を除く。)。

 したがつて、これらの訴えは訴えの利益がなくすべて不適法であり、却下さ

れるべきである。

5 指定外財産返還手続に係る行政処分性ついて

  行政事件訴訟法三条二項は、処分の取消訴訟とは「行政庁の処分その他公権

 カの行使に当たる行為」の取消しを求める訴訟をいう、と規程している。した

 がって、原告が取消しを求める対象は、行政庁の処分(行政処分)その他公権

 力の行使に当たる行為でなければならない。判例によれば、行政庁の処分とは、

 公権カの主体たる国又は公共団体が法令の規程に基づき行う行為のうち、その

 行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律

 上認められているものをいうと解されている(最高裁昭和三九年一〇月二九日

 第一小法廷判決・民集一八巻八号一八〇九ページ)。また、ここにいう公権力

 の行使とは、一般に、法が認めた優越的な地位に基づき、行政庁が法の執行と

 してする権力的意思活動を指すとされている。

 指定外財産は、前記1のとおり旧法に基づく指定はされていないがその沿革

 から北海道庁長官ないし被告が事実上管理するに至っていたものにすぎず、そ

 こには何らの公権力性も認められないから、その返還手続は行政庁の処分その

 他公権力の行使には当たらないものと解すぺきである。

  原告A A A Aの訴えのうち、訴状別紙五記載の官報公告における番号五の財

 産(指定外財産)については、乙第二号証の七のとおり返還請求があつたが、

 同人がその共有者ないし共有者の相続人であることを確認できなかったことか

 ら乙第三号証の七のとおり返還しない旨の決定をしている。

  しかしながら、前記のとおり、指定外財産の返還手続はそもそも行政処分そ

 の他公権カの行使にはあたらないから、これに係る訴えは不適法であり、却下

 されるべきである。

6 原告A A A Aの請求のうち訴状別紙五記載の官報公告における番号一六の共

 有財産に対する処分、原告S S S Sの請求のうち訴状別紙十記載の官報公告に

 おける番号五及び一七の共有財産に対する処分並びに原告T T T Tの請求に対

 する処分(以下「返還しない処分」という。)に対する無効確認請求について

  原告らは、本件において同一の対象に対し主位的に無効確認請求、予備的に

取消請求せ併合提起しているが、無効確認訴訟は、もともと取消訴訟が出訴期

間の徒過等の理由で提起できなくなつた場合に、一定の要件の下で (行訴法三

六条参照)、補完的・補充的に認められるものである上、取消訴訟は対世効の

有無、立証責任、瑕疵の内容・程度の点において無効確認訴訟よりも原告らに

有利なものであるから、重複する無効確認訴訟は訴えの利益を欠き不適法であ

る。

  なお、原告らは、返還しない処分についての無効原因事由 (それら処分の重

大かつ明白な違法、出訴期間経過後においてもなお救済に値するとの評価を受

ける違法)を何ら主張していないことを付言する。

第二 本案に対する答弁

一 請求の趣旨に対する答弁

 原告A A A Aの請求のうち訴状別紙五記載の官報公告における番号一六の共有

財産に係る請求、原告S S S Sの請求のうち訴状別紙十記載の官報公告における

番号五及び一七の共有財産に係る請求並びに原告T T T Tの請求のうち予備的請

求に係る部分をいずれも棄却する

 訴訟費用は、右原告らと被告の間では、右原告らの負担とする

との判決を求める。

 

二 請求の原因に対する認否

1 第一について

 (一)一項について

    原告A A A Aが{色丹郡斜古丹村旧土人共有」及び「色丹村共有」の各共

   有財産等の共有者ないし共有者の相続人であること、原告S S S Sが「天塩

   国天塩郡、中州郡、上州郡旧土人共有」及び「旭川市旧土人五〇名共有、旭

川市旧土人共有」の各共有財産の共有者ないし共有者の相続人であること並

びに原告T T T Tが「天塩国天塩郡、中川郡、上川郡旧土人共有」の共有財

産の共有者ないし共有者の相続人であることは否認し、その余は認める。

  これらの共有財産に係る原告A A A A、同S S S S及び同T T T Tの返還

請求については、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に園する知織の普

及及び啓発に関する法律附則第三条第二項に親定する北海道旧土人共有財産

に係る公告等に関する省令(平成九年厚生省令第五二号。乙第四号証。以下

「厚生省令」という。)二条に定める書類によっては共有者ないし共有者の

相続人であることが確認できなかったため、共有財産を返還しない決定を待

つたものである (乙第三号証の六、同一五、同一六、同二〇)。

 (二)二項について

    被告が旧法一〇条の規定に基づいて共有財産を管理していたことは認める

   が、その余は否認する。

    現在における共有財産の管理はアイヌ新法附則三条一項の規定に基づくも

   のであり、また、指定外財産の管理は、旧法及びアイヌ新故に基づくもので

   はない。

2 第二について

(一)一項について

   認める。

(二)二項について

   おおむね認める。

   ただし、共有財産返還に係る手続きは、被告が策定したものではなく、アイ

  ヌ新法附則及び厚生省令に基づくものである。

(三)三項及び四項について

   認める。

(四)五項について 

   第一文のうち、原告らが共有財産等の返還請求を行ったことは認めるが、

  返還請求をするに至った理由については不知。

   第二文については、原告A A A Aが「色丹郡斜音丹村旧土人共有」及び

  「色丹村共有」の各共有財産等の共有者ないし共有者の相続人であること、

  原告S S S Sが 「天塩国天塩郡、中川郡、上川郡旧土人共有」及び「旭川市

  旧土人五〇名共有、旭川市旧土人共有」の各共有財産の共有者ないし共有者

  の相続人であること並びに原告T T T Tが「天塩国天塩郡、中川郡、上川郡

  旧土人共有」 の共有財産の共有者ないし共有者の相続人であることが審査委

  員会において認められたことは否認し、その余は認める。

   前記1の(一)で述べたとおり、これらの共有財産等については、原告秋辺得

  平、同S S S S及び同T T T Tがその共有者ないし共有者の相続人であると

  審査委員会において認められたものではない。

(五)六項について

   原告らが、共有財産の発生原因等について明らかにするよう求め、また、

  共有財産の返還方法についての指摘を行ったことは認めるが、被告が右各要

  求について明確にせず、満足な調査もしないまま今日に至っているとの点は

  否認する。

   被告は、原告らの右各要求に対して現存する資料の収集を行い、可能な限

  りの調査を実施し回答するなど誠意をもって対応している。

(六)七項について

   原告A A A Aに対して「色丹都斜古丹村旧土人共有」及び「色丹村共有」

  の各共有財産等の、原告鹿野川見に対して「天塩国天塩郡、中川郡、上川郡

  旧土人共有」及び「旭川市旧土人五〇名共有、旭川市旧土人共有」の各共有

  財産の、原告T T T Tに対して「天塩国天塩郡、中川郡、上川郡旧土人共

  有」の共有財産の各返還処分をしたことは否認し、その余は常める。

   これらの共有財産等については、右三名の原告らが共有者ないし共有者の

  相続人であるとは認められなかつたことから、共有財産等を返還しない決定

  をし、通知している。

3 第三について

(一)一項について

   認める。

(二)二項について

 (1)1について

    争う。

    共有財産の管理については、被告が共有者ないしその相続人から委任を

   受けて行っていたものではなく、旧法一〇条の規定に基づき行っていた。

   被告は、共有者ないしその相続人に対して善良なる管理者の注意義務をも

   ってその財産を管理する義務を負っていたものではないが、北海道旧土人

   共有財産管理規程に基づき、共有財産の管理を適正に行っていたものであ

   る。

 (2)2について

   否認する。

   旧法上、被告が共有財産の管理状況について報告する義務を負っている

  ものではないが、共有財産の指定内容を変更した際にはその旨の告示を行

  っていた。

 (3)3について

    原告らの共有財産の総額の出納経緯を報告していないことは認める。し

  かし、旧法上、被告が共有財産の管理状況について報告する義務を負って

  いたものではない。

 (4)4について。

    争う。

    被告は、共有財産の共有者ないしその相続人に対して善良なる管理者の

   注意義務を負っていたものではない。

 (5)5について

    第一文については認め、第二文については争う。

   被告は、共有財産の共有者ないしその相続人に対して善良なる管理者の

   注意義務を負っていたものではなく、共有財産の返還に当たっては、アイ

   ヌ新法附則及び厚生省令に基づき適正に行っている。

(三)三項について

   争う。

 4 第四ないし第七について。

  いずれも争う。

三 被告の主張

 1 原告A A A Aに係る訴状別紙五記載の官報公告における番号一六の共有財産

  原告S S S Sに係る訴状別紙十記載の官報公告における番号五及び十七の共有

  財産並びに原告T T T Tに係る訴状別紙十三記載の官報公告における番号五の

  共有財産については、提出された返渡請求書及び添付書類によってはこれらの

  共有財産の共有者ないしその相続人であるとは認められなかったことから返還

  しない決定を行ったものであり、この処分は、アイヌ新法附則及び厚生省令に

  基づき適正に行われたものであって、右三名の原告らの返還しない処分に対す

  る請求には理由がないから、速やかに棄却されるべきである。

  その余の被告の主張は、必要に応じて追つて準備する。