被告は、原告らの平成一一年一二月二一日付け準備書面に対し、以下のとおり反論
する。
なお、略語等は本準備書面において新たに用いるもののほか、従前の例による。
一 訴えの利益について .
1
う。)の無効確認又は取消しを求める本件各訴えに法律上の利益が存するとし、
その根拠として、本来返還の対象となるべき財産が公告されず、返還手続から除
外されている可能性があるとの前提で、@仮に除外されているとすれば、原告ら
の返還請求自体を不可能ならしめるもので、原告らにとつて不利益な行政処分で
ある、A仮に、被告らが管理していた財産すべてを公告の対象としていたとして
も、返還価格の決定にあたって貨幣価値の変動が十分に考慮されておらず、また、
その返還手続に原告らアイヌの人々を参加させるか、少なくとも意見を反映させ
るべきであるのにそれらがされていない旨主張するかのようである。
2 しかしながら、@についていえば、まず、原告らの主張する「本来返還の対象
となるべき財産」の意味が不明確である。アイヌ新法附則三条に規定する返還す
べき共有財産とは、同条一項に規定される「この法律(アイヌ新法−被告におい
て補充)の施行の際現に前条の規定による廃止前の北海道旧土人保護法第十条第
一項の規定により(北海道知事が−被告において補充)管理する北海道旧土人共
有財産」であり、そのような共有財産のみが返還制度の対象となるよう制度設計
産」に、かようなアイヌ新法の規定する「共有財産」以外にも返還すべき財産が
あると考えてるいるふしがある。しかしながら、仮にそうだとすれば、原告らの
主張は、アイヌ新法が規定する返還手続の制度設計の内容自体を非難する性質の
ものといえ、本件返還処分自体の根拠を自ら否定することを意味するから、原告
らが主張するように、より有利な共有財産の返還処分がされることにはならない
のである。なお、原告らは、最高裁判所昭和六二年四月一七日第二小法廷判決を
引用するが、同事案は違法事由として照応原則違反が主張されているものであり、
違法事由の法的模造が本件とは全く異なるもので引用には適切でない。
仮に、原告らの主張する「本来返還の対象となるべき財産」の意味が、アイヌ
新法附則三条に規定する返還すべき共有財産と同じであるとしても、公告された
もの以外に本件返還処分時点で被告が管理していた共有財産は存在していないの
であるから、原告らの主張は失当である。すなわち、被告は共有財産返還手続に
当たり、それまで被告が管理していた共有財産について、その指定経緯や改廃状
況を十分に調査した上で、返還の対象となるすべての共有財産を公告しているの
である。原告らは、アイヌ新法附則三条に競定する返還すべき共有財産のうち、
本件処分に当たつて企告されていない共有財産が存在する可能性があると主張す
るが、何ら具体的な主張・立証はなされていない。
そもそも本件返還処分にあつては、答弁書第一の二の
4
らの返還請求どおりの返還決定をしているのであり、原告らに回復されるべき法
律上の利益が存しないことは明らかである。
3 次に、Aについていえば、まず、アイヌ新法附則三条の定める共有財産の返還
手続きの大要は、前述したように「この法律(アイヌ新法―被告において補充)の
施行の際現に前条の規定による廃止前の北海道旧土人保護法第十条第一項の規定
により(北海道知事が―被告において補充)管理する北海道旧土人共有財産」を
公告し、返還請求を経て返還する手続として制度設計されているもので、そもそ
も、貨幣価値の変動を考慮する(いわば補償的要素を含めた)制度としては設計
されてはいない。被告は、根拠法令に基づいて、原告らの返還請求に対し、請求
どおりの額を返還する旨決定したものであり、原告らに何ら不利益を与えるもの
ではない。仮に、原告の右主張が、返還手続を設計するに当たり、アイヌの人々
に対する補償的要素を考慮し、貨幣価値の変動を考慮した返還をするような制度
を設計すべきであつたという趣旨であるならば、それは、アイヌ新法という法令
自体の内容の適否を抽象的に論じるものであり、本件返還処分に対する違法事由
としては、主張自体失当である。なお、現行法上、物の返還処分に係る返還額の
決定に当たり、貨幣価値の変動を考慮すべき一般的規定はなく、最高裁判所昭和
五七年一〇月一五日第二小法廷判決(判例時報一〇六〇号七六ページ)も、軍事
郵便貯金の払戻しについて、「貯金の預入後その払戻までに所論のごとき貨幣価
値の著しい下落があつたとしても、そのことによって右貯金額が当然増額修正さ
れるものとすべき現行法上の板拠はなく、被上告人(国)は右貯金払戻当時の貨
幣をもってその債務額を弁済すれば免責されるものと解するのが相当である」と
判示しているところである。
さらに、原告らは、返還手続へのアイヌの人々の参加等について主張するが、
そもそも、そのようなことを要請する規定はアイヌ新法附則にはない。しかし、
実際の返還手続においては、被告が返還請求の審査に当たつて設置した審査委員
会の構成員には、アイヌの人々を代表する社団法人北海道ウタリ協会や旭川アイ
ヌ協議会の役員が含まれており、被告は、アイヌの人々の意見を反映させるべく
対応していたものであつて、何らアイヌの人々の意見を反映していないとの原告
主求には全く理由がない。
二 指定外財産返還手続に係る行政処分性について
1 原告らは、指定外財産の返還手続につき、行政事件訴訟法(以下「行訴法」と
いう。)三条二項にいう「その他公権力の行使に当たる行為」には事実行為も含
み、@同種の行政作用の一連の手続と比較してその実質的同一性、A適用されて
いる行為形式や行政不服申立ての方法につき教示があること、などから、その行
政処分性を肯定すべきであると主張するようである。
2 確かに、行訴法三条二項にいう「その他公権カの行使に当たる行為」は、いわ
ゆる公権力的事実行為という事実行為を意味するものである。しかしながら、こ
こで全権力的事実行為とは、「行政庁の一方的意思決定に基づき、特定の行政目
的のために国民の身体、財産等に実力を加えて行政上必要な状態を実現させよう
とする権力的行為」であるから(杉本・「行政事件訴訟法の解説」一二ページ)、
法律行為的処分と同様に法の板拠を要するとともに、国民の権利自由に対する侵
害の可能性をもつ行為でなければならない。具体的には精神病院への強制入院、
税関による国内持込品の留置など、いわゆる即時強制にあたる行為を典型とする。
それは、行政庁が公権力の行使としてするこれらの事実行為は、相手方の権利侵
害は明らかであるが、下命処分が先行しないため「処分」の取消訴訟によらしむ
ことは不可能である上、単純な事実行為とは異なり、一方的に相手方の意思を強
制する意味において、公定力ないしそれに類似する効力を生じるといいうること
から、企定力を排除することを目的として設けられた取消訴訟制度の対象とする
のが相当であり、民事訴訟の対象とすることがふさわしくないからである。
3 この点、原告らは、@指定外財産は共有財産と一体として管理されてきた財産
であり、A被告の一方的判断で返還手続をしたものであるから、その返還行為は
いわゆる権力的事実行為に該当する旨主張する。確かに、指定外財産は共有財産
と一体として管理されてきたものであるが、それは、答弁書第一の二の
5たとおり、旧法に基づく指定はされていないもののその沿革から北海道庁長官な
いし被告が事実上管理するに至っていたものにすぎず、その返還も右沿革から共
有財産に準じることが相当であることから、事実上そのような処理をしているも
のであり、何ら法的枚拠を有するものではなく、そこには何らの公権力性も認め
られない。また、指定外財産の返還は返還請求に対応してしたもので、なんら被
告が一方的にしたものではない。指定外財産の返還手続は、行政処分その他公権
力の行使には当たらないのであり、原告らの主張は失当である。
4 また、原告らは、同種の行政作用の一連の手続と比較してその実質的同一性が
認められる場合には行政処分性が認められるとして、最高裁判所昭和六一年二月
一三日第一小法廷判決(民集四〇巻一号一ページ)を引用するが、同判例は法律
が定める二つの手続構造の類以性から、一方の段階的手続の中間的決定について
行政処分性を肯定したものであり、本件指定外財産のように法律の板拠なく事実
上共有財産の返還に準じた手続を採用した事例の先例として引用するのは不適切
である。
5 さらに、原告らは、指定外財産についても、アイヌ新法附則三条各項及び厚生
省令を根拠として返還決定あるいは申請却下決定を下す公法的行為形式が採用さ
れており、かつ、指定外財産の返還請求を棄却する通知には不服申立ての方法が
教示されているから、指定外財産返還手続についても行政処分性が認められ、そ
の当否を抗告訴訟として争うことが許される旨主張する。しかしながら、既述の
ように、指定外財産の返還手続は、事実上共有財産の返還手続に準じているにす
ぎず、アイヌ新法附則三条各項及び厚生省令を根拠として返還決定あるいは申請
却下決定を下す公法的行為形式が採用されいるわけではないし、また、指定外財
産を返還しない旨の通知には、原告の指摘するような教示はなく (乙第三号証の
七)、原告らの右主張は失当である。
三 無効確認訴訟の補充性について
1 原告らは、無効確認訴訟の補充性につき、最高裁判所平成四年九月二二日第三
小法廷判決(民集四六巻六号一〇九〇ページ(もんじゆ原発訴訟))を引しっつ
つ、共有財産返還処分が、@旧法下の不当な強制的共有財産管理を清算すること
やアイヌの人々の民族としての誇りが専重される社会の実現を図るという目的の
ためにされるものであり、多数の権利者間において相互に連鎖し、関連しあつて
いる財産に関するものであることから、「当夜処分の無効確認を求める訴えのほ
ぅがより直裁的で適切な争訟形態」 であり、「現在の法律関係に関する訴えによ
って目的を達成することができない」 し、Aかような行訴法三六条の要件(濫訴
防止のために取消訴訟に比し狭められた訴えの利益)が認められる以上、当然に
訴えの利益が認められる旨主張し、結局のところ、行訴法三六条の要件が認めら
れる以上は、無効確認訴訟は常に同一処分に係る取消訴訟と併合的にできる旨主
張するようである。
2 しかしながら、同一の行政処分に対する取消訴訟と無効確認訴訟は、いずれも
当該行政処分の瑕疵を理由としてその効力を争う点で異ならないところ、取消訴
訟は無効確認訴訟に対し、違法性の程度・証明費任・判決効などの点で原告にと
ってはるかに有利であるだけでなく、そもそも無効確認訴訟は、出訴期間を徒過
し、審査請求前置を欠く場合であつても、その違法性の重大性等に鑑み、取消訴
訟の補充的訴訟形態として認められたものであること、加えて、行政処分に対す
る無効確認訴訟が当該処分の出訴期間内に提起された湯合には、右無効確認請求
のうちに取消請求も包含されているものと解されている (最高裁昭和三三年九月
九日第三小法廷判決・民集一二巻一三号一九四九ページ) ことからすれば、少な
くとも取消訴款と重複して餅合提起された無効確認訴訟は訴えの利益を欠くとい
うべきである (同旨の裁判例として、高知地裁昭和五七年一〇月四日判決・行裁
例集三三巻一〇号二〇三七ページ、横浜地裁昭和六一年二月一九日判決・判例時
報一二〇六号二四ページ、釧路地裁昭和五八年一一月二九日判決・行裁例集三四
巻一一号二〇六七ページ、その控訴審札幌高裁昭和六〇年一一月二六日判決・行
裁例集三六巻一一・一二号一九〇五ページ)。
四 結論
以上のとおり、右各訴えはいずれも不適法であり、却下されるべきである。