平成一一年(行ウ)第一三号

北海道旧土人共有財産等返還手続無効確認請求事件

準 備 書 面

原 告  小  川  隆  吉

  外二三名

被 告  北 海 道 知 事

 平成一二年三月二七日

   原告ら訴訟代理人

 弁護士 村   松   弘   康

外六名

  

 被告平成一二年二月四日付準備書面に対する反論

第一、訴えの利益について(右書面一)

 一、アイヌ文化振興法附則三条の解釈等について(右書面一の2)

  1「現に」の趣旨について

  1. 被告は、「原告らは、その主張する『本来返還の対象とな
  2.   るべき財産』に、かようなアイヌ新法の規定する『共有財

      産』以外にも返還すべき財産があると考えているふしがあ

      る。」とし、「原告らの主張は、アイヌ新法が規定する返

      還手続の制度設計の内容自体を非難する性質のものといえ、

      本件返還処分自体の根拠を自ら否定することを意味するか

      ら、原告らが主張するように、より有利な共有財産の返還

      処分がされることにはならない。」と主張している。

  3. しかし、かかる主張は前提から誤っており、失当である。 

  すなわち、被告は、アイヌ文化振興法附則第三条によっ

  て返還されるべき共有財産とは、同条一項で規定している

  「この法律の施行の際現に前条の規定による廃止前の北海

  道旧土人保護法第十条第一項の規定により管理する北海道

  旧土人共有財産」であり、そのような共有財産のみが返還

  制度の対象となるよう制度設計されていることを議論の大

  前提としている。しかも前述した通り、被告は右書面二頁

  で、「原告らは、その主張する『本来返還の対象となるべ

  き財産』に、かようなアイヌ新法の規定する『共有財産』以

  外にも返還すべき財産があると考えているふしがある。」と

  も述べている。これを考慮すると、必ずしも明確ではない

  が、被告は「現に……管理する」(アイヌ文化振興法附則第

  三条一項)の意味を、現時点において北海道知事が実際に

  管理している共有財産のことを指すと捉えているようである。

  (3)しかし、そもそもアイヌ文化振興法附則第三条は、旧土

  人保護法の廃止に伴い、同法第一〇条に基づいて強制的に

  行われていた共有財産に対する管理を、歴史的経緯への反

  省をも含めて清算するための規定である。

 このことは、アイヌ文化振興法第一条で、「アイヌの人々

の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図」ること

が同法の目的とされていること、およびアイヌ文化振興法

附則第三条は「北海道旧土人保護法の廃止に伴う経過措置」

規定であることからも明らかである。

 この趣旨に鑑みれば、アイヌ文化振興法附則第三条によ

って返還されるべき共有財産とは、北海道知事が現に手元

に管理しているか否かにかかわらず、共有財産として指定

され管理が開始された財産のうち、現在適法に管理されて

いるべき財産である。

 言い換えると、アイヌ文化振興法附則第三条一項の「現

に」との文言には、同法が施行される際、既に共有財産と

しての管理が適法に終了した財産を返還の対象から除く、

という意味しかないのである。

  1. この理は他の立法例から見ても明らかである。すなわち、
  2.   「現に」との文言は、「現実に存在している」との意味だけで

      なく、「現実に存在すべきであった」という意味でも用いら

      れていることからも裏付けられる。

     例えば、民法における「現に利益を受ける限度」(民法第

    一二一条但書)とは、現実に手元に存在する利益のみを指

    すと解されていない。すなわち、無能力取消において、相

    手方から受領した金員をもって他者に対する債務を弁済し、

    必要な生活費を支弁した時は、利益は現存するとするとさ

    れており(大審院昭和七年一〇月二六日判決 民集一一巻

    一九二〇頁)、仮に手元に金員が残っていなくとも、実質的

    にみて利益が現存すべかりし場合においても返還すべきと

    解されている。

  3. アイヌ文化振興法附則第三条にいう「現に……管理する
  4.   共有財産」も同様に解釈すべきである。

     すなわち、「現に……管理する共有財産」とは、北海道知

    事が現実に管理対象として把握している共有財産のみをい

    うのではなく、旧土人保護法第一〇条三項に基づいて共有

    財産として指定され、同法第一〇条一項によって管理され

    てきた共有財産のうち、現に管理している共有財産のみな

    らず、適法に管理が終了した財産以外の、現に管理すべか

    りし共有財産をも全て含むと解すべきである。

     すなわち、現時点で、管理してはいないかもしれないが、

    「旧土人の保護」(実質的にはアイヌ民族に対する差別と

    偏見に満ちた悪法なのではあるが)の趣旨に反し、不当に

    財産管理を怠り、散逸させるなどして、現に返還できなく

    なったとされる財産も、現に管理すべかりし共有財産とし

    て、返還の対象となるべき共有財産である。

  5. このように、原告が主張する「本来返還の対象となるべ

  き財産」は、アイヌ文化振興法附則第三条に規定する「共

  有財産」なのであるから、「原告らの主張は、アイヌ新法が

  規定する返還手続の制度設計の内容自体を非難する性質の

  ものといえ、本件返還処分自体の根拠を自ら否定すること

  を意味する」とする被告の主張は前提からして誤りである。

  2、更に、被告は、原告らの引用する最高裁判所昭和六二年四

   月一七日第二小法廷判決について、「同事案は違法事由とし

   て照応原則違反が主張されているものであり、違法事由の法

   的構造が本件と全く異なるもので引用には適切でない。」と

   主張するが、被告は右判決の引用の趣旨を理解しておらず、被

   告の主張は失当である。

 すなわち、原告が平成一一年一二月二一日付準備書面で右

判決を引用した趣旨は、本件共有財産返還手続が権利者たる

多数のアイヌの人々に対して行われ、相互に連鎖し関連し合

っている手続であるから、このようなアイヌ民族の共有財産

返還処分の効力をめぐる紛争を私人間の法律関係に関する個

別の訴えによって解決しなければならないとするのは右処分

の性質に照らして必ずしも適切とはいい難いこと、および、

本件請求が「自己に対してより有利な」共有財産が返還される

べきことを主張していることにほかならないのであって、共

有財産が返還される以前の、北海道による共有財産管理状態

に戻すことを目的とするものではないことから、最高裁判所

昭和六二年四月一七日判決によって、無効等確認訴訟の訴え

の利益が肯定されることを主張するためであった。

 そして、右の結論は、違法事由の法的構造とは無関係に導

き出せるものであって、被告の主張は原告らの引用の趣旨を

曲解し、単に相違点を述べるに留まるものであり、主張とし

て失当である。

  3、次に、右書面三頁の「仮に、原告らの主張する…」以下の部

   分が、訴えの利益を否定する根拠として論じられているので

   あれば、被告の右主張は「本案に理由が無い以上、訴えを却

   下すべきである」という逆転した論理に基づくものであり、

   明らかに失当である。

 すなわち、仮に、平成九年九月五日付官報で公告された共

有財産が、アイヌ民族に返還すべき共有財産の全てでなけれ

ば、これに対する原告からの返還請求自体が不可能となり、

原告らの財産権を侵害することになるのである。このように、

右公告の対象となった財産が、返還の対象となる財産の全て

か、それ以外にも返還すべき財産が存在するのかという問題

は、原告らの財産権侵害という処分の無効事由や取消事由の

有無を決する本案審理で検討されるべき問題なのである。訴

えの利益の判断は、本案に理由があると仮定した上で、当該

訴訟手続を利用させるべきなのかを判断する訴訟要件である。

被告の主張は、被告の側から見て本案に理由がないから、訴

えは却下すべきであると主張しているものであって、主張と

して失当である。

 なお、本案の問題としてこの点を考えるに、「被告は共有財

産返還手続に当たりそれまで被告が管理していた共有財産に

ついて、その指定経緯や改廃状況を十分調査した上で、返還

対象となるすべての共有財産を公告している」と主張してお

り、原告は右主張を全面的に争っているのであるから、被告

は被告が行った調査経緯を明らかにする責任がある。

  4、なお、「被告が行った返還手続は原告にとって不利益な行政

   処分に該当する」との原告の主張(平成一一年一二月二一日

   付準備書面)に対し、被告は「そもそも本件返還請求処分に

   あっては、答弁書第一の二の4で述べたとおり、原告らの返

   還請求どおりの返還決定をしているのであり、原告らに回復

   されるべき法律上の利益が存在しないことは明らかである。」

   (右書面四頁)と従前の主張を繰り返すのみで、原告の主張

   に対する直接的な反論がなされていない。

 そもそも本件において、返還手続の無効が確認され、または

これが取消されると、判決の拘束力(行政事件訴訟法第三

三条・同法三八条一項)を介し、アイヌ文化振興法付則第三

条に基づく知事の公告に遡って返還手続がやり直される。そ

して、その判決においては、返還対象とすべき財産について

の調査が不十分であること、貨幣価値の変動を十分考慮の上

返還額を決定すべきであるのにこれを怠っていること、原告

らの手続上の権利が侵害されていることが、違法事由として

挙げられているはずであり、判決の拘束力(行政事件訴訟法

第三三条・同法第三八条一項)を行政側が無視しない限り、

原告らにとって、より有利な共有財産の返還がなされること

になるのである。

 このように、原告らは、本件請求が認容されることにより、

より有利な共有財産の返還を求めているのであるから、本件

返還処分が原告らの権利又は法律上の利益を害する不利益処

分であることは明らかである。

 二、貨幣価値の変動に対する考慮及び手続的権利の侵害について

   (右書面一の3)

  1. 被告は、アイヌ文化振興法付則三条に定める共有財産の返
  2.  還手続は、貨幣価値の変動を考慮する制度としては設計され

     ていないことを前提として、「仮に原告らの右主張が、返還手

     続を設計するに当たり、アイヌの人々に対する補償的要素を

     考慮し、貨幣価値の変動を考慮した返還をするような制度を

     設計すべきであったという趣旨であるならば、それはアイヌ

     新法と言う法令自体の内容の適否を抽象的に論じるものであ

    り、本件返還処分に対する違法事由としては主張自体失当で

    ある。」と主張している。

    しかしながら、アイヌ文化振興法が貨幣価値の変動を考慮      

      する制度として設計されているか否かについては、本案審理

      の対象とすべき問題であって、訴えの利益を否定する根拠に

      は全くなりえない。

    すなわち、原告らは、貨幣価値の変動を十分考慮した上で

      北海道知事は返還額を決定し公告すべきであったのに、これ

      をせずに返還額を決定し公告をした点を捉えて、返還処分が

      違法である旨を主張しているのであって、法令自体の内容の

      適否を抽象的に論じているわけではない。そして、貨幣価値

      の変動を考慮すべきであるか否かは、本案審理の対象となる

      問題なのである。

    なお、被告が引用する最高裁判所昭和五七年一〇月一五日

      第二小法廷判決(判例時報一〇六〇号七六頁)は、軍事郵便

      貯金の払戻しについての判例であって、法律に基づいて行政

      庁が管理してきたアイヌ民族の共有財産の返還とは事例を全

      く異にするばかりか、右判例は民法上の解釈論に過ぎず、行

      政処分たる本件返還処分には当然のものとして適用し得ない

      のであって、引用として不適切である。

  3. 被告は、返還手続への原告らの参加につき、「被告が返還請

 求の審査に当たって設置した審査委員会の構成員には、アイ

 ヌの人々を代表する社団法人北海道ウタリ協会や旭川アイヌ

 協議会の役員が含まれており、被告は、アイヌの人々の意見

 を反映させるべく対応していた」と主張している。

 しかし、かかる審査委員会は、返還請求者に資格があるか

否かを審査する機関に過ぎず、アイヌの人々の主張が手続的

に反映されるものであるとは到底いえないものである。

 であるならば、かかる審査委員会を設けたことの一事をも

って、手続的保障が十分であったといえないことは明らかで

ある。

三、以上、訴えの利益に関する被告の主張はすべて失当であって、

 原告の請求には訴えの利益が認められる。

 第二、指定外財産返還手続の処分性について(右書面二)

    1. 被告は、共有財産および指定外財産の返還手続につき、「そも
    2.  そも行政処分その他の公権力の行使にはあたらないから、これ

       に係る訴えは不適法であり、却下されるべきものである」と主

       張している。

        かかる被告の主張は、原告平成一一年一二月二一日付準備書

       面で主張した通り失当である。

        すなわち、行政処分に該当するか法律上一義的に明確でない

       としても同種の行政作用との実質的同一性から処分性を認めた

       最高裁昭和六一年二月一三日第二小法廷判決(民集四〇巻一号

       一頁)及び適用されている行為形式など運用状況を総合的に考

       慮して処分性を認めた札幌高裁昭和四四年四月一七日判決(行

       裁例集二〇巻四号四五九頁)に反するものであり指定外財産の

       返還手続についても行政処分性は肯定されるのであって、被告

       の主張は失当である。

       以下、さらに詳論する。

    3. 被告は、指定外財産の返還決定が行政事件訴訟法第三条に言

 う「処分その他公権力の行使に当たる行為」にあたらないかの

 ごとき主張を繰り返している。

  しかし、行政事件訴訟法第三条にいう「処分その他公権力の

 行使に当たる行為」のうち、後者に事実行為が含まれることは

 一般に認められている。

  すなわち、取消訴訟の対象となる事実行為とは「行政庁の一

 方的意思決定に基づき、特定の行政目的のために国民の身体、

 財産等に実力を加えて行政上必要な状態を実現させようとす

 る権力的行為である」とされる。

  したがって、本件指定外財産の返還行為もアイヌ文化振興法

 施行によって、共有財産の返還が求められたことに伴い、共有

 財産と一体として管理してきた財産を返還し旧土人保護法以来

 のアイヌの人々の財産の管理体制を終了しようとする目的にで

 たものであって、被告の一方的判断で共有者の財産の返還手続

 を行ったものであるから、右指定外財産の返還手続において指

 定外財産と共有財産は不可分一体のものとして扱われているの

 であり、法に準拠して同種の返還手続を行いながら一方につい

 てのみ処分性がないものとする被告の主張は失当であり、指定

 外財産の返還決定も「処分その他公権力の行使に当たる行為」

 である。

  三1、被告は特に指定外財産について「確かに、指定外財産は共

    有財産と一体として管理されてきたものであるが、それは、

    答弁書第一の二の5で述べたとおり、旧法に基づく指定はさ

    れていないもののその沿革から北海道庁長官ないし被告が事

    実上管理するに至っていたものにすぎず、その返還も右の沿

    革から共有財産に準じることが相当であることから、事実上

    そのような処理をしているものであり、何ら法的根拠を有す

    るものではなく、そこには何らの公権力性も認められない」

    と主張し指定外財産の返還手続につき行政処分性がないかの

    ごとき主張をしている。

  1. 仮に、被告が主張するように、「北海道庁長官ないし被告が
  2.  事実上管理するに至った」ものであるとしても、被告が財産

     の権利者との合意に基づいて財産の管理を開始していたので

     あれば、民法その他の一般私法規定及び当事者間の合意に従

     って管理し、財産管理の終了による財産の返還についても民

     法その他の私法規定および当事者間の合意に従って行わねば

     ならない。

     すなわち、他人の財産の管理者である被告は、民法上の寄

    託あるいは事務管理の規定に従い、また財産管理人の規定の

    趣旨に従って、管理すべき責任がある。

     とすると、被告は他人の財産の管理者として、善管注意義

    務をもって権利者ないしその承継人を特定し、その者らに財

    産を返還すべき義務を負い、義務を尽くしても権利者ないし

    その承継人が不明である場合、供託するか、財産の存在を公

    示し権利者ないしその承継人を捜索するなどしたうえで財産

    管理の終了手続を行うべきである。

     しかるに、指定外財産については、被告自身が共有財産と

    同様アイヌ文化振興法附則第三条の手続に準じて返還するこ

    とを決定している。

     これは、指定外財産は共有財産に準じて返還すべき財産で

    あることを認めていることにほかならない。

  3. また、被告は「北海道庁長官ないし被告が事実上管理する

 に至った」と主張するのみで、管理を開始するに至った経緯

 や理由を明らかにしていない。

 指定外財産については、被告は権利者との合意に基づいて

財産の管理を行っておらず、共有財産と同様、行政庁たる被

告の一方的意思に基づいて財産の管理が開始されたと可能性

すらある。

 したがって、共有財産と指定外財産の違いはまさに北海道

旧土人保護法第一〇条に基づく指定がなされていたか否かの

一点に尽きる。

 そして、行政庁たる被告が指定外財産を管理するに至った

経緯を明らかにしていない以上、被告による指定がなかった

ことだけをもって、その返還処分に行政処分性がないという

ことはできない。

 仮に、被告の主張が許されるならば、行政庁の過誤による

指定漏れがある場合や、恣意的に指定をしないという判断が

行政庁によってなされた場合には同種の処分について行政処

分性が否定されることになってしまう。

 このような考え方は、行政庁の過誤や恣意的判断によって

行政事件訴訟による救済の途を閉ざすことを許し、国民の権

利を著しく侵害するものであって、妥当でないことは明らか

である。

 したがって、特に財産管理開始の経緯、財産管理の経緯、

財産返還手続、等について共有財産との相違が明らかにされ

ない限り、指定外財産につき行政処分性を否定することはで

きない。

    1. 以上の通り、被告は指定外財産について事実上管理してきた

 と主張しながら、財産管理の終了に際して民法上の寄託あるい

 は事務管理の規定に従って返還することは行わず、アイヌ文化

 振興法附則第三条に準じて返還することとしている。

  すなわち、指定外財産の返還手続について明らかに一般私法

 規定とは異なる方式での返還手続を策定しているのである。

  そして、共有財産と指定外財産が格別その性格を異にするも

 のであることを被告が明らかにしていない以上、一連の財産返

 還手続において返還決定ないし返還の申請却下決定は公権力の

 行使として為されている以上、右行為は共有者の財産を確定す

 る行為に外ならず「直接国民の権利義務を形成しまたはその範

 囲を確立することが法律上認められているもの」として取消訴

 訟の対象としての「行政処分」にあたることには疑いがない。

  したがって、指定外財産返還手続も「行政庁の違法又は不当

 な処分その他公権力の行使に当たる行為」であり、抗告訴訟に

 よってその無効ないし取消を求めることが許されるのであって、

 特に指定外財産の返還行為につき行政処分に当たらないとする

 被告の主張は失当である。

 

 第三、無効等確認訴訟と取消訴訟の併合提起について(右書面三)

 被告は、主位的に無効確認訴訟が、予備的に取消訴訟が提起

された場合に、行政処分に対する無効確認訴訟が当該処分の出

訴期間内に提起された場合には、右無効確認請求のうちに取消

請求も包含されているものと解されていることからすれば、少

なくとも取消訴訟と重複して併合提起された無効確認訴訟は訴

えの利益を欠くというべきである」と主張している。

 しかし、かかる主張は原告平成一一年一二月二一日付準備書

面で主張した通り、最高裁昭和六二年四月一七日第二小法廷判

決(民集四一巻三号二八六頁)および最高裁平成四年九月二二

日第三小法廷判決(民集四六巻六号一〇九〇頁)に反するもの

であり失当である。

    1. 無効等確認訴訟は、処分の無効を前提とする現在の法律関係

 に関する訴え(当事者訴訟又は民事訴訟)ではその処分による

 不利益を排除できない場合だけでなく、起因する紛争を解決す

 るための争訟形態として、処分の無効確認を求める訴えのほう

 がより直截的で適切な争訟形態といえる場合にも、行政事件訴

 訟法三六条所定の無効確認の訴えの原告適格が認められている。

  そして、当該請求についても、所有権に基づく返還請求訴訟

 や、損害賠償請求訴訟の提起による救済を求めることが不可能

 とはいえない。

  しかしながら、本件処分が旧土人保護法下における不当な強

 制的共有財産管理を清算することを目的として行われたもので

 あって、返還の根拠であるアイヌ文化振興法第一条には「アイ

 ヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図」る

 ことが目的とされており、本件返還処分はその一環として行わ

 れたものである。

  すなわち、単なる私法上の財産権についての処分とはいえず、

 また、多数の権利者間において相互に連鎖し、関連し合ってい

 る共有財産の返還処分であることに鑑みるならば、返還処分の

 無効を前提とする当事者訴訟や民事訴訟では紛争の抜本的解決

 にはならない。

  したがって、本件請求は「当該処分の無効確認を求める訴え

 の方がより直截的で適切な争訟形態」であると解される。

  よって、当該訴訟も「現在の法律関係に関する訴えによって

 目的を達することができない」場合に該当し、本件の無効確認

 請求は適法なものであって却下されるべきではない。

    1. 無効等確認訴訟は出訴期間の制限がなく、事情判決の規定(行
    2.  政事件訴訟法第三一条)も準用されていない(行政事件訴訟法

       第三八条)など、取消訴訟よりも原告にとって有利な訴訟形態

       である。

        ただ、特に出訴期間の制限がないことから乱訴の防止のため

       取消訴訟に較べて(狭義の)訴えの利益が狭く解されている(行

       政事件訴訟法三六条)にすぎない。

        したがって、無効等確認訴訟を主位的請求とし、出訴期間内

       であれば取消訴訟を予備的請求とすることは可能である。

        この場合、行政処分に無効原因である重大明白な違法が認め

       られれば主位的請求が認容され、主位的請求の認容を解除条件

       として予備的請求として取消請求を申し立てることが可能であ

       ることは周知の事実である。

        この点については、「無効確認訴訟における取消訴訟の規定

       の準用関係をみると(行訴法三八条参照)、取消訴訟においては

       行訴法一〇条一項により自己の法律上の利益に関係のない違法

       の主張が制限されるのに対し、無効確認訴訟においてはこの制

       限はなく主張しうる違法事由の範囲が広い点(なお、行訴法三

       八条二項で同法一〇条二項の原処分主義は準用されている。)及

       び取消訴訟においては事情判決の制度(行訴法三一条一項)が

       あり、当該処分に瑕疵が認められても請求が棄却されることが

       あり得るのに対し、無効確認訴訟においては事情判決がされる

       ことはない点において、無効確認訴訟の方が取消訴訟よりも原

       告に有利であるから、前記のような場合であっても無効確認訴

       訟の訴えの利益は認められるべきであろう。」(司法研修所編

      「行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究」(法曹会)一

      五二頁以下)とされている。

       したがって、本件のように主位的に無効等確認請求を、予備

      的に取消請求を併合して提起することは許される。

    3. 被告が引用する最高裁昭和三三年九月九日第三小法廷判決は、
    4.  無効等確認請求のみが提起された事例に関する判決であり、そ

       のような請求であっても取消訴訟の出訴期間内に提起された場

       合には無効等確認請求に取消請求も包含されていると解するこ

       とができる旨判示したものであって、本件請求のように主位的

       に無効等確認請求を、予備的に取消請求を提起した場合の事例

       とは異なるものである。

    5. なお、原告らの請求のうち、予備的請求の部分については、

 主位的請求である無効等確認訴訟で訴えの利益が認められる以

 上、取消訴訟の訴えの利益も当然認められる。

  したがって、本件主位的請求は訴えの利益を有する適法な

 訴訟であり、予備的請求についても訴えの利益等訴訟要件が

 存している適法な訴訟であるから、いずれも却下は許されない。

 

 第四、求釈明

  被告は、本件共有財産返還手続に当たり、それまで被告が管理し

 ていた共有財産について「その指定経緯や改廃状況を十分調査した

 上で」返還対象となるすべての共有財産を公告していると主張して

 いる。

  そこで、共有財産の指定経緯、改廃状況を資料を明示した上で、

 すべて明らかにされたい。

  また、指定外財産を管理するに至った経緯も明らかにされたい。

                           以 上